日本では風邪や花粉症などと同じくらい有名な病気であるうつ病(大うつ病障害)ですが、実際にうつ病の症状がどのようなものなのか正確に理解している人は少ないのではないでしょうか。
うつ病の経験がない人は「うつ病 = 気分が落ち込んでいる」というだけの認識の人もおり、病名は有名だが実態はあまり知られていないのが現実です。そこで今回は改めてうつ病(大うつ病障害)の特徴や症状についてお話ししたいと思います。
気分が落ち込むだけがうつ病の症状ではない
一番最初に世間のうつ病のイメージとして訂正しなければいけないのが、「うつ病は気分がひどく落ち込む、精神症状である」という誤解です。もちろん、うつ病には抑うつ気分や意欲の低下など精神症状がありますが、身体症状もあります。うつ病になったことがない人の多くがこの身体症状の実態を知らないのが事実だと思われます。
では、うつ病になったときの身体症状とはどのようなものがあるのか、まとめてみました。
① 睡眠障害
うつ病になった人の大半が経験するのが睡眠障害だと言われています。睡眠障害には大きく分けて2種類あります。
- 眠ってもすぐに目が覚めてしまう「不眠状態」
- どんなに長い時間眠っても眠りが足りない「過眠状態」
また、上記以外にも眠ろうと思ってもなかなか眠ることができない入眠障害もあります。
② 全身の倦怠感
常に全身がだるく、疲れやすい状態が続きます。これは何か運動をしたからという理由があるからではなく、慢性的な症状です。しかもどんなに休んでもだるさや疲れが取れることはありません。
③ 食欲低下
うつ病のときの食欲低下というのは単に食欲が低くなるだけではありません。健常児に比べて味覚がわからなくなる場合があり、料理を食べてもおいしいと感じられなくなることがあります。
「料理をおいしく感じることができない = 食事の楽しみが低下」することで食欲が低下してしまうのです。
また、食欲が低下することで体重が激減する人もいます。
④ その他、様々な症状
うつ病に多少、詳しい人であれば上記で挙げた「睡眠障害・全身の倦怠感・食欲低下」などは知っているかもしれません。
しかし、うつ病のときの身体症状は他にも多々あり、頭痛・腹痛・吐き気・嘔吐・首や肩のこり・めまい・呼吸困難など、個人個人によって様々な症状が現れます。
うつ病というのは精神的な悩みで苦しんでいる人と考えている人が多いかもしれませんが、実際は様々な身体症状に悩み、苦しむ人が多いのです。
また、このような身体症状は自身がうつ病だと気づくきっかけになる場合も多いです。精神症状だけならば、
「ただのストレスだろう」
「ちょっと疲れているだけだ」
「嫌なことがあって一時的に落ち込んでいるだけ」
このように自分だけで問題を解決してしまうこともありますが、身体に異変が起こり始めると何かがおかしいことに気づきます。
以前の記事でご説明したように、うつ病になってしまった人に対し気晴らしにどこかへ出かけさせることがマイナスに働いてしまうことがあるのは、この身体症状が原因の場合もあります。単純に身体症状がきつく、外へ出かけるのが負担になるわけです。うつ病にはツラい身体症状もあることがわかっていないと、友人・ご家族・会社の同僚がうつ病になってしまったときに間違った対処方法をしてしまうかもしれないので注意が必要でしょう。
うつ病の身体症状(実体験)
では、実際にうつ病の身体症状がどれだけツラいものなのか、私自身の実体験をお話ししたいと思います。
私の場合、身体症状として頻繁にあったのが、動悸が激しい・発汗・倦怠感・睡眠障害などでした。これらのなかで病院・クリニックへ行こうと決断したのは動悸と発汗です。
自分自身の体調の異常には薄々感じていたのですが、睡眠障害や倦怠感では決定打に欠けていました。これまでの人生で寝つきが悪いことや眠りが浅いことはありましたし、倦怠感に関しても仕事をしていれば誰もが一度や二度は感じることだというのが理由です。
「ツラいが病院へ行くほどではないだろう」
私はこのように感じていました。そもそも何の病気なのかはっきりとわからないという気持ちもありました。
しかしある朝、異変が起こります。その日は仕事だったのでベッドから起きて支度をしなければいけなかったのですが、私はベッドからなかなか出ることができませんでした。
「早く仕事に行かなければいけない」
「準備しろ、準備しろ」
「行きたくない……」
様々な感情が生まれるなかで漠然とした焦燥感が自分を襲い、その瞬間、身体の震えと発汗、そして動悸が著しく激しくなりました。
ベッドと掛け布団のなかでガタガタと震えながら汗を流し、あっという間にシーツと布団が汗でびしょびしょになりました。そのとき私はまるで悟ったかのように「病院に行かなきゃ」という言葉が頭のなかをよぎったのです。
そのあとの行動はとても早いものでした。会社に休むことを伝え、インターネットで精神科がある近場の病院・クリニックを探し、予約を済ませ、その日のうちにクリニックへ行き、うつ病(大うつ病障害)と診断されました。
さらに治療を開始してからもっとも怖かったのが呼吸困難です。
私の場合、うつ病の治療中はベッドで横になっていることが多かったのですが、そのとき呼吸困難になることが多かったです。つまり、非常にリラックスしている状態にも関わらず、突如として呼吸困難になってしまうのです。
具体的には喉が通常の状態から少しずつ細くなっていく感じです。例えるならば、口をすぼめて呼吸しているような状態になります。もちろん、私は口をすぼめていませんし、どんなに口を大きく開けてもうまく呼吸することはできませんでした。過呼吸とも違う症状です。
私は呼吸困難になったとき、いつも命の危険を感じていました。一人暮らしだったため、このまま自宅で倒れてしまうと誰にも助けてもらうことができないためです。なので呼吸困難になってしまったときはいつも外に出ていました。
ふつうの道端のときもありましたし、スーパーのときもありました。今、考えると非常に迷惑な話なのですが、近くのスーパー銭湯に駆け込んだこともあります。銭湯なら誰かが倒れれば確実に助けてくれるという希望があったからです。
あとから聞いた話ですが、呼吸困難によってそのまま窒息死するようなことはありえないそうです。しかし、当時の私にとって突発的にやってくる呼吸困難は恐怖以外の何者でもありませんでした。
このようにうつ病というのは精神症状だけでなく、身体症状も起こります。さらに抗うつ薬や睡眠薬を服用している場合は副作用とも戦わなければいけないのです。
うつ病と大うつ病障害は同じである
最後にもうひとつだけお伝えしたいことがあります。この記事でも何度かうつ病(大うつ病障害)という言葉を使っていますが、
「うつ病と大うつ病障害って違うんじゃないの?」
このように思った人も多いのではないのでしょうか。日本人の感覚だと「大」という文字が入ることにより、普通の状態よりも重いものや大きいものとして認識しがちですよね。大うつ病障害と聞くと、うつ病よりも重い症状のうつ病だと思い人も多いのではないでしょうか。
しかし、うつ病と大うつ病障害は名前が違うだけであり、違いはありません。
これは昔、医学英語を和訳したときに大という和訳をしただけであり、症状や特徴に違いがあるから大という文字を使っているわけではないのです。
もしかするとあなたが精神科で診断を受けたときに「大うつ病障害です」と診断され、驚くかもしれませんが、通常のうつ病と変わらないということを覚えておいてください。
心と身体の病気であることを忘れてはいけない
今回、私の実体験の話を含め、うつ病のイメージが大きく変わった人もいるのではないでしょうか?
残念ながら未だにうつ病に関して誤解している人が多く、会社の上司や友人などは「心の持ちようでなんとかなる」と思っている人がいます。
しかし、このような身体症状がある限り、心の持ちようでなんとかなる問題ではありません。うつ病になったことがない人がうつ病には身体症状もあるということを知っているだけで、うつ病の人たちが過ごしやすい世の中に変わっていくのではないかと思います。