会社での激務が原因で眠れない、何も楽しくない、注意力散漫でミスを繰り返すという状態になってしまったため家族に促されて心療内科を受診し、うつ病と診断されました。そのまま6ヶ月間休職した後にやっぱり元の会社に戻ることが出来ず退職して、その後は比較的負担の少ない仕事に再就職した為症状は改善したのですが、闘病中の精神状態を思い出すと象徴的なのは大好きだった音楽が一切聴けなくなったことです。
うつ病から好きな音楽が聴けなくなりました
元々私はCDを1000枚くらい所有するくらいの音楽好きで、通勤中もウォークマンで音楽を聴いたり、休日も家でオーディオで音楽を聴いたりするのが好きでした。洋楽邦楽問わずいろいろ聴いていて、曲調や歌詞、ミュージシャンの生き様などに励まされたり鼓舞されたりして人生の支えにしてきたといっても過言ではありません。それほど重要でなくてもBGMとして何も考えずに聞き流して心地いい気分になったりもするし、興味の無い音楽が街中に流れていても特に気にも留めないという、日常に音楽があり、真剣に聴く時も聞き流す時もあるというごく一般的な音楽好きでした。
しかし音楽への感受性がうつ病の闘病中は仇となりました。そもそも会社の激務状態の時は完全に忙殺されて音楽すら聞こえてこなかったのですが、休職して自宅で療養するようになると、自分はこのままでいいのか、自分は仕事もしないで怠惰な生活をしていてダメ人間だという自問自答が激しくなったり、抗うつ薬が効いてきて外出できるようになったりと、自分について考える時間が多くなってきた頃、自分にとって音楽が辛いということに気づいて凹みました。
まず、休職中なので趣味で気晴らしをしようという気分が生まれてきた頃に自分の家のオーディオでお気に入りの音楽を聴き始めました。すると、お気に入りの音楽を聴けば聴くほど、その音楽を聴いていたころの充実して輝いていた頃の自分と今の抜け殻のようになった自分とのギャップが浮き彫りになり辛くなり、憧れのミュージシャンがたくましい姿で演奏しているのを思うだけでやっぱり自分のダメさ加減を責められているような気分になってしまい、落ち込んで全然聴き続けられませんでした。
そもそも、大きい音自体の刺激もなんだか不安を掻き立てるし、あんなに好きだった音楽すら聴くことが出来なくなってしまった自分の情けなさが辛かったです。
更に、自発的に聴く音楽以外に街に出たときに店の中で流れているヒットソングですらダメでした。いつもなら聞き流すような邦楽のヒットソングの歌詞がなぜかうつ状態の自分にははっきりと聞こえて突き刺さってきて、たとえば応援系ソングなら、お前は頑張らないからダメだというふうに責められているように感じるし、励まし系なら、こんなに励まされても立ち上がらないお前はダメ人間だとやっぱり責められているように感じます。特にメッセージが無い曲でも元気一杯な曲なら自分の境遇とのギャップで辛くなるし、とにかく外部から自分に働きかけてくる音楽の全てがダメでした。一人で入ったラーメン店でヒップホップ系の「お前はそんなもんじゃない。勇気を出して立ち上がれ」系の歌詞が流れてきた時には、ラーメンを一口くらいしか食べることが出来ず店を飛び出してしまったこともありました。店員さんからすれば、なんだあの客はと思ったでしょう。今となっては笑い話ですが、私にとっては、音楽イコール世の中全部の声だったり、世の中からのメッセージだったり、輝いていた頃の自分からのメッセージだったのだと思います。
音楽とうつ病の関係
結局だいぶ状況が良くなるまでは音楽という音楽が殆ど聴くことが出来ず、辛うじて聴けるのは、オルゴールミュージックのようにメッセージ性も力強さも無いような癒し系の音楽くらいのものでした。とにかく無になりたいという気持ちが強かったです。
周囲の声もきつかったです。元々私が音楽好きなことを知っていたので、気分転換にライブに誘ってくれたり、音楽でも聴いてリラックスすればとアドバイスしてくれる友人もたくさんいましたが、それに応えられない自分が本当に歯がゆく残念でした。
私にとってこの状態は本当に深刻なうつ状態のときの悩みの一つだったのですが、「音楽の歌詞を聴くとダメな自分に向けての叱責に聞こえる」という悩みはほとんど誰にもわかってもらえず、冗談だと思って笑われるのがオチでした。カウンセリングで臨床心理士に話したこともありましたが、「それなら歌詞の無いインストゥルメンタルを聴けばいいですよ。」ぐらいの反応だったのも悲しかったですが、結果的にはそうでした。以前の自分と縁の無い無色透明な音楽を最初に聴くことができるようになり、だんだん改善するにつれて以前と同じように音楽から感銘を受けたり生きる力を得られるようになって、最終的には音楽が聴けない状態から脱却できました。
その後、同じうつ病の人の体験を聴いたり読んだりすると、意外に同じような感覚を持っている人が多いことに気づき、元々持っていた感受性の強さが病気によって研ぎ澄まされてしまい、さらにそれが全てネガティブな思考に変換されてしまうというのがまさにそれだと今は思っています。