うつ病の治療方法といえば、やはり投薬治療がメインで行われることが多いのですが、どうしてうつ病の治療には抗うつ薬を飲まなければいけないのでしょうか? 今回はうつ病の治療に抗うつ薬が使われる理由と自己判断で断薬することのデメリットについてお話します。
抗うつ薬を飲む理由は神経伝達物質の働きを正常に戻すため
そもそもうつ病にはなぜ、抗うつ薬が使われるのでしょうか?
うつ病の原因はまだはっきりと解明されていませんが、現状、うつ病の原因として考えられているのが退職や引っ越し、親しい人との死別などの環境的要因と同時に脳内にある神経伝達物質の働きが弱くなっていることが関係しているのではないかと言われています。
神経伝達物質のなかにはセロトニンやノルアドレナリンなどがあるのですが、うつ病の人は健常者に比べ、このセロトニンやノルアドレナリンが不足していることがあります。
抗うつ薬を服用する理由のひとつは"不足しているセロトニンやノルアドレナリンを増やし、通常の状態に戻す"ことにあります。
他にもうつ病の人が強く感じやすい不安の解消や抗うつ薬の種類によっては睡眠作用があるので、不眠で悩んでいる人にも有効的です。
うつ病の人が担当医に黙って薬をやめてしまう理由
うつ病で投薬治療をしている人は担当医に相談せず、勝手に抗うつ薬を飲むをやめてしまう人が少なくありません。
これには大きく分けて2つの理由があります。
<薬の効果が出るまでに時間がかかる>
基本的に抗うつ薬は効果が現れるまでに時間がかかります。どの抗うつ薬を服用するのか、さらに個人差があるのですが、効果を実感し始めるまでには約2週間かかります。
しかも、2週間経過したからといって、はっきりと薬の効果を実感できるかといえば、そういうわけでもありません。(効果の実感にも個人差があります)
そもそもうつ病は短期間で病状が一気に回復するような症状ではなく、長い日数をかけて、ゆっくりと治療していかなければいけない症状です。
しかし、患者側にしてみると薬を飲んでいるにもかかわらず効果を実感するまでに時間がかかる、効果を実感しづらいというのは悩ましい問題なのです。
「本当に薬は効いているのだろうか」
「この薬であっているのかな?」
「担当医が適当に薬を飲ませてるだけじゃないのか」
このように疑心暗鬼になり、薬に対して疑問を抱くようになってしまいます。そして、疑問が強くなっていく人のなかには、
「効果がない薬を飲んでも仕方がない」
「飲まなくても話さなければ担当医にはバレないだろう」
「むしろ薬を飲まないほうが良いのでは?」
このように自分で勝手に判断して、薬を飲むのをやめてしまうのです。
<複数種類の副作用がツラく、薬を飲むのを拒んでしまう>
薬を勝手にやめてしまう理由として多いのが副作用です。
抗うつ薬を飲み始めると様々な副作用が身体を襲います。吐き気・眠気・不眠・動悸・頭痛・口の渇き・便秘など、副作用は抗うつ薬の種類、そして個人個人によってどの副作用が強く出るのか異なります。
とくに飲み始めて1〜2週間以内の間は身体が薬の成分に順応していないため、副作用がもっともツライ時期のひとつです。
この薬を飲めば副作用が出るということがわかっているにもかかわらず薬を飲まなければいけないというのは、想像以上にツラいことです。
多くの人が「もう薬を飲みたくない」と、抗うつ薬の副作用が嫌で挫折してしまいます。
自分の判断で断薬するのは危険な行為
「自分の体調は自分が一番わかってる。風邪薬だって飲むときもあれば飲まないときもあるんだから勝手にやめても大丈夫なんじゃないか?」
抗うつ薬を担当医との相談なしに自己判断で薬を飲むのをやめてしまうのには大きな問題があります。それは”離脱症状”です。
人の身体というのは薬を飲み続けると、その薬の成分に順応していきます。要するに薬の成分が身体のなかにあることが通常の状態になっていくのです。
しかし、急に薬を飲むのをやめてしまうと、薬の成分が身体に入ってこないことに身体がびっくりして、バランスを崩してしまうことがあります。
離脱症状が起こると、めまい・しびれ・吐き気・不安・不眠・耳鳴りなど、様々な症状が起こります。
離脱症状による精神的な悪循環
先に説明した離脱症状を見てもらえるとわかるように、離脱症状は抗うつ薬の副作用と共通している症状があります。(頭痛・不眠・吐き気など)
そうすると、患者はこのような気持ちになることがあります。
「薬をやめたのに体調が良くならない……」
うつ病の患者はただでさえ不安な毎日と戦わなければいけないのに、そこにさらに不安な要素を加えるのは非常によくありません。
また、薬をやめたのに以前と変わらない症状が出てしまうことで、「うつが再発してしまった……」と"うつ病の症状と離脱症状を混合してしまう"人もいます。
このような悪循環を招かないためにも自己判断で薬をやめるのではなく、担当医の指示に従って減薬していくのが大切です。
薬を勝手にやめて回復したというのはあくまで例外なケース
インターネットの口コミやブログを見ると、たまにこういう意見を聞くことがあります。
「自己判断で薬をやめたけど、何も問題がなかったよ」
抗うつ薬の副作用もそうですが、離脱症状に関しても万人が必ず起こるものではありません。副作用も離脱症状も個人差があり、副作用がまったく出ない人も世の中にはいます。
自己判断で薬を飲むのをやめ、そのまま何もなかったという人は、あくまで例外なケースであり、このような例外なケースを真似するのはよくないでしょう。
また、このように自己判断で薬をやめ、大丈夫だったと言っている人たちが最終的にうつ病を克服できたのかどうかはわかりません。薬をやめてしばらくは薬の効果が身体に残っており、たまたま体調が良く、そのときの様子を口コミやブログに書いただけかもしれません。
通常は少しずつ薬の量を減らすことで身体を慣らしていきます。例えば1錠飲んでいた場合は最初は半分、次に4分の1錠というように、ゆっくりと時間をかけて薬の量を減らしていきます。
この時間をかけた減薬によって、身体に急な変化が起こらないようにするとともに、断薬したあと抗うつ薬がなくても大丈夫な身体を作っていかなければいけません。
また、薬を急にやめ、体調が回復しなかった場合は再び抗うつ薬を飲まなければいけません。先に説明したように抗うつ薬の副作用は飲み始めの頃が一番キツいです。
薬を急にやめ、そのまま時間が経つと、身体は薬に順応していない元の状態に戻ってしまいます。すると、また1から身体を抗うつ薬に慣らしていかなければいけません。
このように自己判断で断薬するという行為は、本人にとって何一つ良い結果を生まない可能性が高いのです。
副作用が無理な人は薬を飲まない治療方法も検討しよう
「私は抗うつ薬の副作用とずっと戦わなければいけないんだ……」
現状、うつ病の治療といえば投薬治療が基本です。ほとんどの病院・クリニックがカウンセリング(問診)と投薬治療を中心とした治療をすることが多いです。
しかし、昨今では薬を使わない精神療法や磁気刺激治療と呼ばれる最新の治療方法もあります。
どうしても投薬治療による薬の副作用がツライ人は、投薬療法以外の治療方法を専門にしている病院・クリニックへ行くことも検討してみましょう。
うつ病は個人差が非常に大きい症状です。あなたにとって一番良い、治療方法をしっかりと探すことが大切です。